最高裁判決を踏まえて、県民はどう前進するか!

 

昨年12月20日、県敗訴の最高裁判決が出た。これを受けて同月26日、翁長知事は取消処分を取消した。残念ではあるが、事態を冷静に受け止めなければならない。判決を踏まえて県民がさらに前進するためには、最高裁判決の射程とその意味を正確に理解し位置付け、今後の対抗策を議論することが必要である。

1 最高裁判決の判断枠組み

最高裁判決は1点を除いて、福岡高裁那覇支部判決の判断枠組みを踏襲した。最高裁判決が高裁判決の誤りを是正した点は、高裁判決が取消処分は原処分に「違法」がある場合に限られると判断したのに対し、原処分が「違法」な場合だけでなく「不当」の場合にも取り消すことができると明示した点である。この是正は、従来の最高裁判決の流れに沿うものであり正当である。

最高裁判決の判断枠組みを、要約すると次のようなものである。

① 仲井真前知事は埋立要件適合性判断を行う裁量権を有している。

② 埋立承認は裁量判断の範囲内であり、「違法・不当」とは認められない。

③ ゆえに、翁長知事は埋立承認に「違法・不当」があることを理由にこれを取消すことができない。

この判断枠組みの特徴は、一旦行われた行政処分を取消す場合の法的要件を「原処分に違法・不当が認められるとき」と明確にし、前知事の「埋立承認」判断に「違法・不当」があるか否かに的を絞って判断した点にある。

2 取消要件

国は一連の訴訟の中で、最高裁1968年判決(農地買収・売渡計画取消処分事件)を引用して、原処分が「違法」であることに加えて、「処分を取消すことによって生ずる不利益と取消ししないことによる不利益とを比較考量し、当該処分を放置することが公共の福祉に照らし著しく不当である」ときに、初めて取消しが認められると主張していた。前記「違法・不当」が取消を行うための第1要件だとすると、これは第2要件の主張である。ところが、今回の最高裁判決はこの点に全く触れなかった。これは同判決が1968年判決を変更するものではなく、高裁判決が第1要件を「違法」と狭く解した誤りを是正し、第1要件の内容を明確にしたものと解される。

最高裁判決は、本件においては、翁長知事の判断が取消要件たる第1要件を充足しているか否かを判断するだけで足り、第2要件の有無まで判断する必要がないとの判断を示したものといえよう。

 高裁判決は「念のため」と付言した上で、「その取消権行使が制限を受ける結果、本件取消し処分が違法となるかについて、以下判断する。」として、第2要件についても検討を加えていた。同検討の中で、取り消すべき公益上の必要について「自然海浜を保護する必要等があげられるが、他方、既に説示したとおり、本件埋立事業を行う必要性自体は肯定できるので、前者が後者に程度において勝ったというにすぎず、その取り消すべき公益上の必要性は減殺される」とし、取り消すことによる不利益として、日米関係の信頼関係の破壊、国際社会からの信頼喪失、本件埋立事業に費やした経費、第三者(民間工事関係契約者)への影響を挙げて、「本件においては、そもそも取り消すべき公益上の必要が取り消すことによる不利益に比べて明らかに優越しているとまでは認められない」と判断していた(判決169~176頁)。

ところが、最高裁判決は第2要件については全く判断を行わなかった。この点は重要である。なぜなら、第2要件は「取消」の場合だけでなく、「撤回」を行う場合の要件を構成すると解されるからである。

3 問題の核心は、何か!

埋立承認をめぐる取消処分問題の最大の核心は、前知事が行った埋立承認が県民にとって今後も維持すべき「適切な判断」といえるか否かにある。県民が埋立承認を「不適切な判断」と評価し、それが取消されるべきものだと考えていることは明らかである。この状況は最高裁判決後も変わらないと思われる。翁長知事の真意も、地方自治体の長としてこの民意をどのように実現するかにあるといえよう。

方法は二つある。一つは、法的措置で埋立工事を阻止することであり、二つは、政治的力で埋立工事を中止させることである。これまでの経過が示すように、法的対抗措置は極めて効果的であった。昨年10月の「取消処分」以来、1年余も国の埋立工事を中断させたことの意義は大きい。国は最高裁判決を受けて埋立工事を再開したが、工事を進めるためには県知事との協議・許可等を要する事項がいくつも存在している。これらの権限は今後の有力な対抗策の法的根拠となる。これらの権限と同様に、もう一つ強力な権限が知事に残されている。それが埋立承認の「撤回」権限である。「撤回」処分は、埋立承認に「違法・不当」があることを理由とするものではなく、埋立承認後に新知事が誕生し政策変更(民意)を行ったことを理由に「埋立承認を将来に向かって取消す行政行為」である。従って、これまでの一連の判決の影響を受けない「新しい処分」となる。