日本の最西端に位置する沖縄県与那国島では、2016年にはじめて陸上自衛隊の沿岸監視隊が駐屯してきたが、安保3文書が閣議決定された翌年の2023年、新たにミサイル部隊の配備予定が防衛省から告げられた。
驚いたのは島民である。当初自衛隊の駐屯に賛成した島民からは、「最初からミサイルが来ると分かっていれば賛成しなかった」との声があがった。しかし防衛省は、お構いなしに地対空ミサイル部隊の配備計画を着々と進めている。
与那国馬が悠然と歩いていた島の風景は、今ではすっかり様変わりし、迷彩服姿の自衛隊員や軍用車両の姿が目立つようになった。自衛隊員は島民人口の2割近くを占めるまでになり、ミサイル部隊反対の声も次第に上げにくくなっている。
それだけではない。与那国島では今、島で唯一の町立診療所(テレビドラマ 「Drコト―診療所」の舞台になった)に医師がいなくなるかも、という問題が浮上している。この診療所に医師を派遣していた東京の法人が、「台湾有事」が起きたら医師の安全が確保できないとの理由で、与那国島への医師派遣をやめると伝えてきたのだ。
迅速に医療を受けることすら危うい状況で「安全保障」を論じるのは、ほとんどブラックユーモアというしかない。あらためて、「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓を肝に銘じるべきだろう。
弁護士 高木吉朗